REFOLIO

2026/10/26 22:07

ビートン夫人の料理本『Every-Day Cookery』。

金色の文字と麦の穂で飾られた、茶色い表紙。『Mrs Beeton’s Every-Day Cookery』は、REFOLIOの食の図版や紙もののもとになっている英国の料理本です。扉には「NEW EDITION」と、出版社Ward, Lock & Co.の名が記されています。

■ 家庭を学ぶ料理本

この本の背景には、ヴィクトリア時代に広がった、家庭の営みを出版物から学ぶ文化があります。イザベラ・ビートンは、夫が出版する女性誌『The Englishwoman’s Domestic Magazine』に料理や家事の記事を寄せていました。それらを基礎とする『The Book of Household Management』は、月刊の分冊を経て1861年に一冊の本となります。

求められていたのは、料理の作り方だけではありませんでした。都市で暮らす中産階級の女性たちにとって、買物をする店を選び、使用人の仕事を管理し、来客の食卓を整えることも家庭運営の仕事。本は、そのための知識を具体的にまとめた手引きでもありました。そこには、当時の女性に期待された役割や、階級によって異なる暮らしの姿も映っています。

ビートンの名を冠する料理書は、その後も改訂や増補を重ねて刊行されました。REFOLIO所蔵の『Every-Day Cookery』は、1861年の『Household Management』とは別題の本。その流れを受け継ぐ、日々の料理と台所仕事の一冊です。

■ 時間と予算も伝えるレシピ

実際にページを開くと、料理の項目には材料と作り方に続いて、調理時間、おおよその費用、何人分か、適した季節まで記されています。レシピだけでなく、時間や予算を考えながら食卓を整えるための情報が揃っているのです。
食材と料理を紹介する彩色図版

■ 台所の道具を伝える図版

台所仕事の章には、作業しながら片づけること、使った器具を洗ってよく乾かすこと。向かいの図版には、フライパンや乳鉢などの道具が番号つきで並びます。細かな線や整った配置は、眺めて美しいだけでなく、道具の形と名前を伝える役割も持っていました。
所蔵の料理本を開いたところ。「KITCHEN UTENSILS No. 5」と本文のページ。書籍の参考写真です。参考掲載・非売品。

■ 図版から紙ものへ

REFOLIOのポチ袋は、この本の乳鉢やフライパンの挿絵をもとに、一部に手を加えてデザインしています。かつて台所の知識を伝えた絵が、今は小さなお礼を包む紙になり、食の図版は額に入って別の食卓のそばへ。本の背景を知ることで、一枚の絵を眺める時間も、少し豊かになればと思います。



古い料理本の図版に着想を得て、一部をアレンジしたポチ袋。原図版をそのまま複製したものではありません。

■ 参考資料

Oxford University Press — Mrs Beeton



※1861年は『The Book of Household Management』の初版年で、掲載する所蔵本の刊行年ではありません。所蔵本の表紙、32〜33・433ページと図版を参照しています。