2026/11/02 12:48
REFOLIOで初めてご紹介する、日本の古い植物図譜(リトグラフ)です。大きく広がる緑の葉、細い茎、控えめな花。身近な草木も、紙の上で向き合うと、思いがけない形の面白さに気づかされます。
今回の4枚は、明治時代に刊行された『普通植物図譜』の一葉。村越三千男が描き、牧野富太郎が校訂を担った、日本の植物を伝える図譜です。

【描く人と、植物学を支える人】
『普通植物図譜』は1906年に刊行が始まり、会費制で毎月届けられた、全5巻60集の図譜です。中心となった村越三千男は、植物学と絵画を教えていた教師。植物を図で学べる教材の必要性を感じ、東京博物学研究会を設けて出版に取り組みました。
写生画を担った村越に対し、植物学者・牧野富太郎の役割は校訂。描くことと、植物を正しく伝えること。その両方が重なるところに、この図譜の魅力があります。
【手描きの線を、印刷で届ける】
こちらの図版は、多色刷石版によるカラー印刷です。石版印刷はリトグラフとも呼ばれます。石版印刷は水と油が反発する性質を利用し、版に描いた線や濃淡を紙へ写します。複数の色を刷り重ねることで、植物の色彩も伝えていました。
葉の輪郭を追う細い線と、面を満たす緑。近づくと見える細かな濃淡が、葉の厚みや起伏を感じさせます。一枚ずつ手で彩色した絵とは異なる、描画と印刷の仕事が重なった図版です。
【4枚、それぞれの見どころ】
カシワバハグマとキッコウハグマ
画面いっぱいの葉と、その上に浮かぶような白い花や綿毛。カシワバハグマの大きな葉と、キッコウハグマの角のある葉を並べることで、緑だけでも豊かな表情が生まれています。輪郭を目で追って楽しみたい一枚です。
ノアザミとヒレアザミ
深く切れ込む葉、鋭いとげ、その先の赤紫色の花。ヒレアザミでは、茎に沿って続くひれ状の部分まで描かれています。似た花を並べた図版だからこそ、葉や茎の違いにも目が向きます。
オニドコロとナガイモ
曲がりながら伸びるつると、葉脈のくっきりした葉。左にはオニドコロの翼のある果実、右にはナガイモの地下部も添えられています。花だけを主役にせず、植物のいくつもの姿を一枚に収めた構成が新鮮です。
トサミズキとヒュウガミズキ
淡い黄色の花と、扇のように葉脈が広がる緑の葉。どちらも葉が開く前に花を咲かせる木で、トサミズキは長めの花房、ヒュウガミズキは少数の花がまとまる短い花房が特徴です。花と葉を一緒に見られるのも、図譜ならではの楽しさです。
【一枚の紙に残る、観察の時間】
各図版は横190×縦267mm。植物名は学名と日本語で添えられ、「とさみづき」「ながいも」といった文字にも、当時の本の表情が残っています。
図譜として植物を伝えるために選ばれた形や構図を、今は一枚の絵として眺める。その間を行き来できるのが、古い植物図譜の面白さです。花の色から選んでも、葉の形から選んでも。日本の草木を、いつもとは少し違う距離で楽しんでいただけたらと思います。
